生後6ヶ月頃までの赤ちゃんは、母乳・ミルクだけで十分な水分と栄養が摂取できるとされています

「お風呂上がりには白湯を」という昔ながらの育児法と、「白湯は不要」という現代の育児情報。この矛盾に戸惑う親御さんは多いでしょう。現在の小児科ガイドラインでは、生後6ヶ月までは母乳またはミルクだけで十分な水分が摂取できるとされています。
しかし、特に夏場は汗をかくため、水分補給の必要性について不安を感じる方もいるかもしれません。この記事では、科学的根拠に基づいた赤ちゃんの水分補給について、月齢別の注意点とともに詳しく解説します。
目次
赤ちゃんの水分補給の基本知識
母乳も粉ミルクも、赤ちゃんの成長に欠かせない水分と栄養をバランスよく供給する、とても大切なものです。
母乳の力
母乳の約9割は水分でできていて、残りの約1割には、赤ちゃんの発育に必要な栄養素と、病気から体を守るための免疫成分がぎゅっと詰まっています。
特に、ナトリウム、カリウム、カルシウムといったミネラルは、赤ちゃんの体の状態にぴったりのバランスで含まれています。これによって、未熟な赤ちゃんの腎臓に負担をかけることなく、効率的に水分を吸収できるのです。
さらに、母乳には「免疫グロブリンA(IgA)」や「ラクトフェリン」「リゾチーム」といったたくさんの免疫成分が含まれています。これらが、細菌やウイルスから赤ちゃんを守る「天然のバリア」のような役割を果たしてくれるのです。おもしろいことに、母乳の成分は時期によって変わります。
生まれたばかりの頃に出る「初乳」には免疫成分が特に多く、その後に出てくる「成熟乳」は水分が豊富になり、日々の水分補給に適した組成へと変化していきます。
粉ミルクの進化
粉ミルクも、母乳にできるだけ近づけるために、長年の研究と開発が重ねられてきました。たとえば、赤ちゃんのお腹に優しい乳糖の濃度を調整したり、脳の発達に大切なDHAやARAという成分を加えたり、お腹の調子を整えるオリゴ糖を入れたりと、様々な工夫が凝らされています。
また、粉ミルクの「浸透圧」は、赤ちゃんの血液と同じくらいのレベルに調整されています。これにより、体の水分バランスを保ちながら、必要な栄養と水分を同時に効率よく届けられます。ただし、粉ミルクの栄養を最大限に活かすためには、パッケージに書いてある通りの正しい濃さで溶かすことがとても重要です。
このように、母乳も粉ミルクも、ただ水分を補給するだけでなく、赤ちゃんに必要な栄養を与え、そして免疫力をサポートするという、素晴らしい3つの機能を持っている「理想的な飲み物」と言えるでしょう。
生後6ヶ月までは母乳・ミルクのみで十分な理由

日本小児科学会、アメリカ小児科学会、そして世界保健機関(WHO)は、生後6ヶ月までの赤ちゃんには母乳やミルクだけで十分な水分が摂れると強く推奨しています。これには、赤ちゃんの体の発達が大きく関係しています。
腎臓機能の未熟さ
生まれたばかりの赤ちゃんの腎臓は、大人の腎臓と比べて未熟です。具体的には、大人の約30〜40%程度の働きしかなく、尿を濃縮する能力も約50%程度にとどまります。このため、赤ちゃんは余分な水分や電解質(ミネラルなど)をうまく体の外に出すことができません。
もし余分な水分を摂りすぎてしまうと、体の中の水分バランスが簡単に崩れてしまう危険があるのです。特に気をつけたいのが「水中毒」です。赤ちゃんが水や薄い白湯を一度にたくさん飲んでしまうと、血液中のナトリウム濃度が異常に低くなってしまう「低ナトリウム血症」という状態を引き起こすことがあります。
こうなると、嘔吐したり、けいれんを起こしたり、意識がはっきりしなくなったりといった症状が現れ、最悪の場合、命に関わることもあります。
小さな胃の容量
加えて、赤ちゃんの胃はとても小さいことも理由の一つです。生後1週間で約30〜60ml、1ヶ月でも約80〜150ml程度しか入りません。
もしこの小さな胃が白湯でいっぱいになってしまうと、赤ちゃんが本当に必要としている母乳やミルクを飲む量が減ってしまいます。その結果、カロリー不足になったり、成長に必要な栄養が足りなくなったりする心配があるのです。
母乳やミルクには、赤ちゃんの体に最適な電解質バランスが保たれています。だから、たとえ暑い環境で赤ちゃんがたくさん汗をかいたとしても、授乳の回数を増やすだけで、必要な水分と電解質を十分に補給できるのです。余計な水分を無理に与える必要はありません。
月齢別の水分補給方法

生後0〜6ヶ月:母乳・ミルクのみでOK
この時期の赤ちゃんは、母乳またはミルクだけで必要な水分をすべて摂取できます。
・新生児期(生後28日まで)
生まれたばかりの新生児期(生後28日まで)は、1日に8〜12回ほど授乳が必要でしょう。1回あたりの飲む量は10〜20mlから始まり、生後1ヶ月ごろには80〜120mlほどに増えていきます。
・母乳の場合
赤ちゃんは自分で飲む量を調整できるので、時間や量を細かく管理する必要はありません。ただし、赤ちゃんの体重が増えているかを確認し、もし足りていないようであれば、授乳の回数を増やしてあげましょう。
・ミルクの場合
赤ちゃんの体重1kgあたり1日150〜200mlを目安に、数回に分けて与えましょう。例えば、体重4kgの赤ちゃんであれば、1日600〜800mlを分けて飲ませます。ミルクを作る際は、必ず清潔な器具を使い、メーカーが指定する希釈濃度をしっかり守ることが大切です。
この時期は、白湯や薄めた果汁、電解質溶液、はちみつ水などは与えないでください。赤ちゃんが脱水症状になっていないかを見逃さないためにも、おむつがしっかり濡れているか、口の中が湿っているか、皮膚にハリがあるかなどを日頃から確認してあげましょう。
生後6ヶ月以降(離乳食開始後):白湯を補助的に

離乳食が始まるこの時期になると、赤ちゃんの消化器官が固形物にも少しずつ慣れていきます。この頃から白湯は補助的な水分補給として役立ちますが、引き続き母乳やミルクが主な水分源であることは変わりません。
・離乳初期(5〜6ヶ月頃)
この時期の離乳食は、まだ「食べる練習」がメインです。栄養のほとんどは母乳やミルクから摂っています。白湯は、食後に口の中をきれいにしたり、少し便秘気味の時に腸の動きを促したりする目的で、ごく少量(数ミリリットル程度)を与えてみましょう。もし赤ちゃんが嫌がるようであれば、無理に飲ませる必要はありません。
・離乳中期(7〜8ヶ月頃)
離乳食の量が増え、食べられる食材も多様になります。この時期の白湯は、食間に少し水分を補給する目的で使ったり、離乳食の調理に利用したりできます。
・離乳後期(9〜11ヶ月頃)
離乳食が1日3回になり、栄養の半分ほどを離乳食から摂るようになります。白湯は、食事の前に少し飲ませたり、食事中に補助的に与えたりすると良いでしょう。また、この時期からストロー付きのコップや、両手で持てるマグカップを使って、自分で飲む練習を始めるのもおすすめです。
・完了期(12〜18ヶ月頃)
離乳食からほとんどの栄養を摂れるようになる時期です。母乳やミルクは補助的な位置づけとなり、白湯は主に食事中の水分補給として活用します。コップで飲む練習を本格的に進め、大人と同じように水分を摂る習慣へと移行していきます。
夏場、お風呂、発熱など、特別な状況での水分補給方法

普段は母乳やミルクだけで十分な赤ちゃんも、特別な状況では水分補給に少し気を配る必要があります。
夏場・暑い日の水分補給
暑い日や夏場は、赤ちゃんの体温調節機能が未熟なため、特に注意が必要です。大人の約3倍の体表面積(体重比)を持つ赤ちゃんは、周囲の温度の影響を受けやすいため、こまめな水分管理が大切になります。
気温が30℃を超える暑い日は、以下の点に特に注意しましょう。
• 室温・湿度を適切に管理: 室温は26〜28℃、湿度は50〜60%を目安に保ち、赤ちゃんが快適に過ごせる環境を整えてあげてください。
• 薄着で過ごす: 通気性の良い素材の薄着を選び、熱がこもらないようにしましょう。
• 外出時は細心の注意を: ベビーカーの日よけを上手に活用し、こまめに休憩を取りながら、赤ちゃんの様子をよく見てあげてください。
もし、普段より授乳間隔が長い、おむつ交換の回数が少ない、皮膚が乾燥している、泣き声が弱い、ぐったりしているなど、脱水症状の兆候が見られたら、すぐに授乳するなど対応しましょう。
また、体温が38℃以上で顔色が悪い、嘔吐するといった熱中症が疑われる症状が現れた場合は、すぐに涼しい場所に移動させ、薄着にして体を冷やしながら、迷わず医療機関を受診してください。
発熱・下痢時の水分補給
赤ちゃんが発熱したり下痢をしたりすると、いつも以上に水分が必要になったり、大量の水分が失われたりします。発熱時は体温が1℃上昇するごとに水分需要が約13%増加すると言われています。38.5℃以上の発熱が続く場合は医療機関を受診しましょう。
下痢時には、通常の便よりも水分量が増えるため、大量の水分と電解質が失われがちです。便の回数、量、状態を記録しておくと、診察の際に役立ちます。基本的には授乳を続けましょう。下痢をしていても、母乳やミルクは消化吸収されるからです。
もし嘔吐も伴う場合は、少しずつ頻繁に授乳するように切り替えてください。血便や粘液の混じった便が見られた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
離乳食を始めている赤ちゃんの場合、医師の指導があれば経口補水液を使うことも選択肢の一つです。ただし、市販の経口補水液は大人向けに作られていることが多いので、赤ちゃんに与える場合は薄める必要があることもあります。
自己判断で白湯を大量に与えるのは避け、あくまで母乳やミルクで水分補給を行い、症状が改善しない場合は医療機関を受診してください。
お風呂上がりの水分補給
お風呂に入ると、赤ちゃんは体重の1〜2%程度の水分を汗として失うことがあります。しかし、これは生理的な範囲内であり、通常は特別な水分補給は必要ありません。
お風呂上がりの基本的な対応としては、授乳のタイミングを調整し、入浴前後1時間は授乳を避け、お風呂から上がって30分ほど経ってから授乳すると良いでしょう。
湯冷めを防ぐために、脱衣所と浴室の温度差を最小限にするなどの室温管理も重要です。また、入浴時間は新生児で5〜10分、月齢が上がっても15分以内を目安にしましょう。
以下のような場合には、5〜10ml程度の白湯(35〜37℃)を与えても構いません。
• 入浴時間が長くなってしまった(15分以上)
• お風呂の後も汗が止まらない
ただし、ほとんどの場合は、お風呂上がりの適切な室温管理と通常の授乳で、十分に水分を補給できます。
赤ちゃんの異変に気づくサインと緊急時の対応

赤ちゃんの水分補給で特に大切なのは、体のサインを見逃さないことです。もしもの時に冷静に対応できるよう、脱水症状や水中毒のサイン、そして緊急時の対処法を知っておきましょう。
脱水症状のチェックポイント
赤ちゃんの脱水症状は、あっという間に進行する可能性があります。軽度、中等度、重度の3段階で症状が変わるので、それぞれのサインを覚えておくことが大切です。
・軽度脱水(体重が3〜5%減る程度)
いつもより元気がない、おっぱいやミルクを飲む間隔が長くなる、おむつが濡れる回数が少ない(1日に6回未満)、唇が少し乾いている、皮膚のハリが少しない、といった症状が見られます。この段階なら、授乳の回数を増やしてあげることで改善が期待できます。
・中等度脱水(体重が5〜10%減る程度)
明らかに元気がない、ぐったりしている、泣いても涙が出ない、または非常に少ない、口の中の粘膜が乾いている、おむつが6時間以上濡れない、皮膚をつまんでも元に戻るのが遅い(2秒以上かかる)、頭のてっぺんにある大泉門(やわらかい部分)がへこんでいる、目が落ちくぼんでいるように見える、といった症状が現れます。これらの症状が見られたら、すぐに医療機関を受診して診てもらいましょう。
・重度脱水(体重が10%以上減る程度)
意識がはっきりしない、ぼんやりしている、手足が冷たい、血圧が低い、脈が速い、顔色が悪い、ぐったりしてショック状態に見える、といった症状がみられます。この段階は緊急事態です。すぐに救急を受診し、点滴などが必要になることもあります。
脱水の程度 | 体重減少の目安 | 主な症状 | 対処法 |
---|---|---|---|
軽度脱水 | 3〜5% | ・いつもより元気がない・おっぱいやミルクを飲む間隔が長い・おむつが濡れる回数が少ない(1日6回未満)・唇が少し乾いている・皮膚のハリが少しない | 授乳の回数を増やす |
中等度脱水 | 5〜10% | ・明らかに元気がない、ぐったりしている・泣いても涙が出ない、または非常に少ない・口の中の粘膜が乾いている・おむつが6時間以上濡れない・皮膚をつまんでも元に戻るのが遅い(2秒以上)・大泉門がへこんでいる・目が落ちくぼんでいるように見える | すぐに医療機関を受診 |
重度脱水 | 10%以上 | ・意識がはっきりしない、ぼんやりしている・手足が冷たい・血圧が低い、脈が速い・顔色が悪い・ぐったりしてショック状態に見える | すぐに救急を受診(緊急事態) |
水分の与えすぎによるリスク:水中毒
「水をたくさん飲ませてあげたい」という気持ちから、過剰に水分を与えてしまうと、「水中毒」という別の危険な状態を引き起こす可能性があります。これは脱水と同じくらい注意が必要で、特に生後6ヶ月未満の赤ちゃんは腎臓が未熟なので、余分な水分を処理できません。
水中毒のサインには、嘔吐や吐き気、頭痛(赤ちゃんは泣き方で訴えることがあります)、けいれん、意識がぼんやりするなど意識レベルの変化、体がむくんで体重が増える、呼吸が苦しそうになる、といったものがあります。
水中毒を防ぐためには、赤ちゃんの月齢に合わせた適切な水分量を守り、短時間に大量の水分を与えないことが非常に重要です。また、白湯などを与えた後は、赤ちゃんの様子を注意深く観察しましょう。授乳量や白湯の量、おしっこの回数を記録しておくと、変化に気づきやすくなります。
緊急時の対応手順
もし赤ちゃんに異変を感じたら、慌てずに以下の手順で対応しましょう。
・脱水が疑われる場合
すぐに母乳またはミルクを与えてください。涼しく、湿度が適切な場所に赤ちゃんを移動させましょう。いつからどんな症状があるか、メモしておくと診察時に役立ちます。中等度以上の脱水症状が見られる場合は、迷わず医療機関に連絡してください。
・水中毒が疑われる場合
白湯やその他の水分を与えるのをすぐに中止してください。赤ちゃんの呼吸、意識レベル、けいれんの有無を注意深く観察しましょう。少しでも水中毒の症状が見られたら、迷わず救急外来を受診してください。
以下のような症状が見られたら、時間帯に関わらず医療機関に相談しましょう。
• 吐き気が止まらない(継続的な嘔吐)
• 38℃以上の発熱が続く
• 明らかに元気がない状態が続く
• けいれんを起こしている、または意識レベルがおかしい
• 便に血が混じっている、または粘液便が出ている
赤ちゃんの異変は心配なものですが、適切な知識を持って冷静に対応することが大切です。心配なことがあれば、いつでもかかりつけ医や小児科に相談してください。
(まとめ)赤ちゃんに白湯はだめ?月齢別の正しい水分補給法を解説
生後6ヶ月頃までの赤ちゃんは、母乳・ミルクだけで十分な水分と栄養が摂取できるとされています
「お風呂上がりには白湯を」といった昔ながらの育児法に戸惑うこともあるかもしれませんが、離乳食開始後も、白湯は口内を清潔にする程度の補助的な役割にとどめましょう。
白湯の与えすぎは「水中毒」のリスクがあるため注意が必要です。暑い日や発熱時には授乳回数を増やし、適温・適量を守って対応してください。
何よりも重要なのは、赤ちゃんの様子を日頃からよく観察し、脱水症状や異変を感じたら自己判断せず、迷わず小児科医に相談することです。適切な知識を持って、安心して赤ちゃんの成長を見守っていきましょう。